養育費と新しい家族法について学ぶ
2026年4月1日から、改正家族法が施行されました。離婚後の共同親権がクローズアップされていますが、実は他にもさまざまな改正がなされており、特に養育費については法定養育費制度の新設など注目すべき改正点が多くあります。そこで、今回は養育費と養育費に関する改正点を中心に、新しい家族法について学ぶために9月5日(土)佐藤力(つとむ)弁護士からお話を聞きました。佐藤弁護士は葛飾区と島根県の2拠点で精力的に活動しています。
佐藤弁護士は「法律は誰に対しても平等で自分を守ってくれるもの。20年間弁護士として活動しているが、日本はどんどん悪くなって、困っている人がたくさんいる。養育費について知らない人がいるが、それは知らないでいてくれたら都合にいい人たちがいるからだろう。フードパントリーでは働き盛りの人たちに弁当を配っているが、島根では弁当を配ることはない。東京では収入があっても物価高で生活が苦しい現状がある。一人で子育てすることに余裕がなくなった結果、ひとり親の虐待が増えている。丁寧に寄り添うことが大事。子どもを育てるのは母親というイメージがあるが、共働きの社会で母親だけが子育てをする時代ではない。離婚後も母親と父親が共同で子育てする時代ではないか。その方が余裕をもって子育てができるはずである。父母の離婚にあたって、法律では子どもの意見を聞くこと(子どもの意見表明)になっているが、残念ながら実態は親の都合で決まっているようだ。弁護士を子どもの代理人にする手段もある」と話されました。
これまで養育費については払われないものといったイメージがありましたが、今回の改正によって、親権者は支払いから逃れられないようになりました。まず、このことを多くの人に知ってもらいたいと思いました。例えば、離婚まで至らない別居の間でも婚姻費用(住居費などの生活のための費用)をもらうことができるなど、私たちの暮らしは実は法律によって守られています。しかし知らないために使うことができないのが現状です。共同親権についても「改正法は、離婚後も共同親権を原則とするのではなく、まずは父母の協議を優先する制度を取り入れています(離婚後の選択的共同親権制)」と選択制になっており、DVや虐待などによる子どもの心身に害を及ぼすと判断された場合は単独親権になります。ここで子どもや親権者の人生を左右する判断をする家庭裁判所の責任は重大だと思います。親の離婚は子どもにとっても大きな問題なので、子どもの意見も聞き入れらえるべきです。3組に1組が離婚し、家族の在り方が多様になっている今、離婚後の子どもの最善の利益のために改正法がどのように実効されていくのか、注視していきます。
〈主な改正のポイント〉佐藤力弁護士資料より
参考:父母の離婚後等の子の養育に関する見直しパンフレット(法務省民事局)
https://www.moj.go.jp/content/001449160.pdf
養育費について
【改正民法817条の12】
1 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
「養育費」とは,離婚後において、「未成熟の子」が通常の社会生活を維持するために「必要な生活費」のことです。具体的には、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などがこれに含まれます。塾や予備校、習い事の費用についても、適切な範囲内で認められることもあります。
親は未成熟の子に対して扶養義務を負っています。離婚後もその関係は変わりません。そのため、子を監護している親は、他方の親に対して、法律によって子の生活費の分担を求めることができます。
養育費は未成年者ではなく「未成熟子」に対して支払われます。
ですから、成年に達した場合でも、子が未成熟子である場合には、養育費の支払を請求することができるのです。
なお、「未成熟子」とは、身体的、精神的、経済的に成熟化の過程にあるため就労が期待できず、未だ独立して生活する能力を有するに至っていない者(第三者による扶養を受ける必要がある子)をいい、一般には20歳までとされています(大学進学が決っている場合などは22歳まで延長されることもあります)。
また、養育費は子どもの権利で、親が放棄することができないとされていますのでたとえ、「請求しない」という念書があったとしても養育費の請求は可能です。なお、養育費の取り決めがなかった場合、過去分をさかのぼって請求することは裁判実務上原則として認められていないので注意が必要です。
養育費について当事者間で話合いがまとまらない場合や、話合いができない場合には,家庭裁判所に調停を申し立てて、養育費の支払を求めることができます。
調停で解決できないときは、裁判官が審判で判断します。
また、法改正により、法定養育費制度も開始されます。法定養育費とは、2026年4月1日施行の改正民法(施行前に離婚した夫婦は対象になりません)により導入される制度で、施行後に離婚・認知した場合、離婚時に養育費の取り決めがなくても、子どもを監護する親が相手方に対し、子ども1人あたり月額2万円の養育費を暫定的に請求できるものです。
この制度は、養育費の取り決めがなされるまでの子どもの生活を保障することを目的としていますので、養育費の取り決めや家庭裁判所の審判がなされた場合には、そちらが優先されます。
なお、法定養育費の請求ができるのは18歳までです。
養育費の不払いについては
養育費が滞った場合、法的に二つの手段があります。
最初の手段が、「履行勧告」と「履行命令」です
「履行勧告」は、家庭裁判所の調停調書、審判書、判決書において養育費の支払いが記載されている場合に、家庭裁判所において支払状況を調査のうえ、電話や通知、場合により呼び出して事情を聴くなどの方法で支払いの勧告や督促をする制度です。
履行勧告によっても支払われない場合には、家庭裁判所は相当の期間を定めて「履行命令」を発することができます(運用として、先に履行勧告をするのが一般的です。)。相手方が履行命令に従わない場合には、10万円以下の過料の制裁があります。
次の手段が「強制執行」です。
強制執行とは、判決書や調停調書・審判書等、執行力のある書面により養育費の支払義務が定められている場合に、相手方の財産から強制的に支払を確保する制度です。また、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成していれば調停などを行わなくても強制執行が可能です。
裁判所に対して強制執行の申し立てをすることで、相手方の財産(不動産や債権など)を差し押さえることができます。
今回の改正により、養育費債権に「先取特権」と呼ばれる優先権が付与されるため、債務名義(家庭裁判所の調停調書など)がなくても、養育費の取決めの際に父母間で作成した文書があれば、この文書に基づいて、差押えの手続を申し立てることができるようになります。
養育費のうち先取特権が付与される上限額は、子一人当たり月額8万円です。なお、民法等改正法の施行前(令和8年3月 31日以前)に養育費の取決めがされていた場合には、施行後(令和8年4月1日以降)に生ずる養育費に限って先取特権が付与されます。
支払義務者の財産が分からない場合には、債務者の財産を把握するための制度として、債務者を裁判所に呼び出し、どのような財産を持っているかを裁判官の前で明らかにさせる「財産開示手続」があります。
この財産開示手続に正当な理由なく出頭しないと刑事罰があります。
また、金融機関や市区町村などの第三者から、債務者の財産に関する情報を取得する「第三者からの情報取得手続」があります。
そして、法改正により、この手続が簡易化されて、利用しやすくなります。
資力などの理由で、弁護士の費用が払えない方のために日本司法支援センター(法テラス)の無料法律相談、民事法律扶助の制度があります。
この制度を利用することで、弁護士費用を国の機関に立て替えてもらうことができ、利用者は毎月の養育費から弁護士の費用を払うこともできます。また、制度改正により、ひとり親のための立て替え免除の制度や、DVなどの被害者のための援助制度も始まっています。そのほかにも、葛飾区では、弁護士への相談費用や公正証書作成などの助成制度があります。
共同親権について
【改正民法819条】
1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、 父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
改正法は、離婚後も共同親権を原則とするのではなく、まずは父母の協議を優先する制度を取り入れています(離婚後の選択的共同親権制)
また、離婚において親権者が定められた場合でも、家庭裁判所は、子の利益のため必要があると認めるときは、親権者を変更することができます。ですから、法改正前に離婚して、単独親権になった場合でも、共同親権に変更することはできますが、その場合、家庭裁判所での手続が必要になります。
裁判所は、第2項又は前2項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
- 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
② 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
改正法819条2項は、裁判上の離婚をする場合には、裁判所が親権者を決めることとしています。この場合、共同親権・単独親権いずれも原則とすることなく、「子の利益」 (改正法819条7項前段)のため、総合的に判断するとされています。したがって、父母の合意がない場合でも、法律上は、共同親権になる可能性があります。
次に、同後段では、父母の双方を親権者と定めることにより「子の利益を害する」場合には単独親権にしなければならないとしています。子への虐待やDVがある場合が典型ですが、この場合の虐待やDVは身体的なものに限られていません。なお、法律は単独親権となる場合を例示していますが、これ以外は共同にしなければならないという意味ではありません。
また、改正法は、従来面会交流とされていた規定を「親子交流」とし、父母以外の親族(祖父母等)と子の交流も認めています。


