都市農業でも「生産する消費者へ!」

今ロシアのウクライナ侵攻や円安、温暖化などで食料品の高騰が止まらない状況にありますが、生産者は飼料や燃料費などの生産コストを価格に転嫁できず、赤字経営が続いています。先日農業ジャーナリスト・明治大学客員教授の榊田みどりさんから、日本の農業の現状と課題、私たち消費者はなにができるのか、についてお話を伺いました。

私たちの食を支えている基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している人)は2022年現在で123万人(平均年齢67.9歳)いますが、20年後には30万人を切ることが予測されています。その内訳は70歳以上が56.7%、60~69歳が22.7%、50歳以下が21%と高齢化が深刻な状況です。さらに現農業者の約7割が「後継者なし」、農業法人などの労働力不足でもあります。農水省はICTやロボット技術を活用し、作業の効率化や品質向上を実現するスマート農業などで打開したいと考えているようですが、打つ手はないのではとのお話でした。

また、首都圏(1都3県)は世界でもまれな人口集積地でもあり、食料自給率はカロリーベースで0%、金額ベースの自給率は2%です。ほとんど食料を自給できていません。2024年問題の働き方改革ではドライバー不足とコスト増による物流の停滞によってこれまでのようにスーパーに品物が並ばない可能性もあります。災害時の被害想定では慢性的な品不足が継続する可能性も。

では、首都圏に住む私たちが食の安全保障のためにできることは何か?

1、「食べ手」も耕す・農家を手伝う・・・「生産する消費者」「耕す市民」へ

欧米では「都市農地」はあっても「都市農家」は不在で行政・NPO・ボランティア・市民が主役となって、都市農業を担っています。また、農産物を供給するだけでなく、肥満などの健康問題、格差問題(食へのアクセスの公平性)、環境・景観保全などの社会問題の解決方法として「コモン」として都市農業を位置づけています。

日本でも貧困層ほど野菜不足になる、ジャンクフードによる肥満などの問題があり、生活困窮者支援のNPO法人「自立サポートセンター・もやい」では体験農園を開設しています。経済格差が広がる中で都市農業のコモンとしての役割は大事になっていくと思います。

2、「地縁」「血縁」で首都圏外の農村とつながる・・・「関係人口」「多様な農業人材」と「食と暮らしの安全保障」

各地で「多様な農業人材」を確保するために兼業・多業型就農の受け皿づくりの動きが広がっています。島根県の半農半X支援事業、JAグループ北海道のパラレルワーカー、JA全農では91農業―暮らしの中に1割農業を提唱するなど。

神奈川県秦野市では新規就農の仕組みをつくり、10aから新規就農を可能にし「小さな担い手をたくさん育てる」ため、新規就農者コース終了者88人のうち、73人が市内の就農につながっています。地域を基盤にしたJA・生協の事業連携も進んでいます。

3、自治体や地域JAと連携・・・地域住民と都市農業者とのマッチングする仕組みづくり

葛飾区では現在約160戸の農業者が営農していますが、高齢化による担い手の確保は課題です。都市農地賃借円滑化法によって、離農しても賃借で農地を残す方法もあり、23区内のJAでは耕せない農地をJAが体験農園に整備する事業が始まっています。具体的にはJA世田谷目黒が展開して、都市住民と地権者の交流が生まれ、農への理解が広がっています。葛飾区でも今後都市農地賃借円滑化法で生産緑地として維持・農地を荒れずに管理できれば、農地が農地として保全することができると思います。そのためには農業者が非農家住民に安心して貸せる仕組みが必要です。農業者の気持ちは動かすには行政・JAとの連携が必要だということでした。

「耕す市民」として農業者との距離を縮めていくためには、まずは交流を通じて私たち市民が関心を持ち、関わり、農地の必要性について伝えていくことではないでしょうか。これまで消費者として、農業を食べ支えてきましたが、食べ支えるだけでは農業を維持できないとしたら、消費者が生産を担う未来を想像することも大事です。