『教育と愛国』上映会&トークセッションに参加して

 この映画は斉加尚代監督(当時ディレクター)が、⼤阪・毎⽇放送(MBS)で20年以上にわたって教育現場を取材し、「教育と政治」の関係について映画化したものです。映画では歴史の記述をきっかけに倒産に追い込まれた大手教科書出版社の元編集者や、保守系の政治家が薦める教科書の執筆者などへのインタビュー、新しく採用が始まった教科書を使う学校や、慰安婦問題など加害の歴史を教える教師・研究する大学教授へのバッシング、などが描かれています。

トークセッションでは宮澤弘道さん(小学校教諭)斉加尚代監督、砂川立教大学教授の3人がお話をされ、特に実際の教育現場で起こっている問題について、考えさせられました。

 

まず、教室の標語に書かれた「平和」という言葉を書いて大丈夫か、思想的ではないかと学校の中で指摘されていることに驚きました。現場の先生たちは月110~130時間のサービス残業をしているため、忙しくて考えられず、現場には抗える力がないこと。働き方改革で残業を減らすために、本来教師がやるべき採点をスクールサポートスタッフ(SSS)がやっている現状にも驚きました。教材も戦争ありきの設定で、戦火の中、命懸けで人を助けることが書かれ、そもそも戦争がいけないこととして触れられていないことにも大きな問題があります。

2011年ごろからは政治主導の教育再生へ変容し、人事評価や、先生の分断、校長の権限が強化され、子どもたちが意見を言わなくなり、社会秩序に子どもたちを適用させるため、学校がルールを守ることに汲々としている、このような学校が子どもたちにとって一体どんな場所になっているのでしょうか。

大学のディベート授業で学生が自分の意見を言っていいのかと教授に聞くのは、明らかに大学生になるまで自分の意見を言ってこなかったことにほかなりません。さらに大学によっては教室を借りて、このようなシンポジウムを開くことも難しくなっているそうです。

社会科の先生が政治的な公平性と中立を保つように言われ、社会科の授業ができないことや、数学の先生から選挙で投票していいのかと聞くなど、モノをいったら、何か降りかかると考えて自制してしまう、教育現場で起こっている、この現実に暗澹たる気持ちになりました。

2006年、第一次安倍政権の時に教育基本法が改定され、「国と郷土を愛する」という愛国心が戦後初めて盛り込まれました。軍国主義へと進んだ戦前の反省から、政治と一線を画してきたはずの戦後教育が、「教育改革」の名の下、教科書検定制度や知らないところで政治介入が行われています。

“いま、政治と教育の距離がどんどん近くなっている”

権力が狙っているのは国民を国に従わせようとしているところにあると思います。「戦前と同じ雰囲気がある」といわれる今、戦前に戻らないようにするために何ができるのか、私たち国民の一人ひとりが主権者であることを忘れず、政府がやろうとしていることを注視し、社会の問題を自分事として考え、立場の違う人とかかわり、多様な意見を尊重することにあります。